この空の下で
開けるように言ったの。おばあさんは夢中で巾着を開けて、手にひとつの銀の輪を落としたの。それは指輪だったわ。そして、おばあさんは顔を上げると、大学生はすでに列車に乗ってて、しかも汽車は汽笛をあげて動き出してたの。そして大学生はこう言ったわ。それは僕の親父の工場で、僕が削って僕が磨いたものです。僕は指輪も買えませんでした。箱さえも買えませんでした。だけど、その気持ちを受け取って欲しい。僕は死にません。絶対あなたのもとへ、手足がなくても、はいつくばってでも戻ってきます。僕の赤ちゃんが生まれるまでには、絶対この戦争を終戦に迎えさせてやります。僕を信じて、僕を思って、それを僕だと思って、生きる喜びと笑う楽しさを、いつまでも、忘れないでください。あなたには、ふくれっつらが似合いません。僕はあなたといつも一緒です。そう言った時、おばあさんはもちろん汽車を追っていったわ。最後には手を出して大学生を汽車から引きずりおろそうとしたんだけど、大学生は手を引っ込めて、おばあさんに背を向けたわ。それが最後だったわ、おばあさんがその大学生を見たのは。おばあさんは戦争が終わった後、その大学生が戻ってこなかったから、日本各地、あらゆるところまで行ったわ。世界の果てまで行こうとしたんだけれど、お金がなくて、そこで打ち切りになったわ。まだおばあさんはその大学生のことを信じていたの。だけど、十年、十五年経った時、おばあさんは悟ったわ。もう彼がいないって…」
「…ひいおばあちゃん…かわいそう」
「…ひいおばあちゃん…かわいそう」