この空の下で
 雄治は新聞紙をスタンドに戻し、再び長イスに戻った。

 腰を下ろすと、雄治はなんとなく受付に目を向けた。そこには忙しそうに働いている看護士がいた。彼女は電話の対応をやっているらしく、ここからは見えないが何かの資料を見ながら対応をしていた。雄治は大変そうだなと思った。

 今度は朝に使った冷水機に目を向けた。朝には気付かなかったが、冷水機はガ―という音をこの待合室中に鳴り響かせた。その音はテレビの音を掻き消すまではいかないが、自動販売機と同じくらいうるさかった。

 そしてその冷水機に一人の男性患者が歩み寄り、ボタンとペダルを同時に押して、ゆっくりと水を飲んだ。雄治はその姿を見届けるとまた視線を変えた。

 今度はどこを見ようと、辺りをきょろきょろ見ると、奥の廊下から、医師がひとつの封筒を持ってこちらに歩いてきた。

 そのとき雄治は時計を見た。するとすでに九時半の三分前だった。雄治は襟元を正し、姿勢を良くした。まるで小学生の正しい座り方のように。

「ああ、そこですか」

 そう言うと医師は雄治のほうに歩み寄った。そのとき皆の視線を一瞬だけ感じた。

「では、これがそのものなので、頑張ってくださいね」

 何を頑張ればいいんだ、と思いながらも、雄治は封筒と地図を受け取った。

「ありがとうございます。でも本当にこれでいいのでしょうか」
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