この空の下で
 医師はカルテを閉じ、ひっそりと朝を迎えている外を見た。

「で、どうするのですか。古葉さんにはなんて言いましょう」

「死にますといっておいて下さい。そうすれば安心するでしょう。誰だって死ぬって分かったら、へこたれるから。死ぬか分からないとか、死ぬか生きるかの瀬戸際だとか言ったりして、大騒ぎしたまま死ぬより、私はひっそりと死ぬことを望みます」

「はは…そうですか。分かりました。伝えておきます」

 そう言うと、扉に向かって歩き始めた。しかし私のベッドの前まで来ると、いったん歩みを止めた。

「それにしても、よくここまで育て上げましたなぁ」

「それはそうですよ。だって私たちの自慢の娘ですもん」

 私はその言葉をベッドの中で、ずっと噛みしめていた。その一言が、私を存在証明させたからだ。何のために生きているか、私はそれを考えたことがあるが、その時は分からなかった。

 医師は部屋を出ると、病室は静まった。

 そして母さんはカーテンを開け、澄みきった目をこちらに向けて言う。

「深雪、起きてるでしょ」

「…うん」

 私はゆっくりと体を起こすと、昨日ほどの痛みはなかったが、チクチクと全身に痛みが走った。そして私は続ける。

「いきなりだけど、約束してくれる?」

「え、何を」

「母さんが全快したら、五年前のアンケートのこと、教えてくれる?」

 母さんは少し戸惑ったような顔をしたが、太陽に照らされた部分が微笑んでいるように見えた。

「うん…いいわよ、約束ね」

 その後、父さんと要は母さんの見舞いに来た。私はついでだ。医師から父さんにあのことを話すと、父さんはみるみるのうちに真っ青な顔になった。

 そして父さんにゆとりを持たせてから、私は父さんに支えられながらも退院した。私が病室を出て行こうとすると、母さんはつぶやいた。

「深雪…ありがとう」
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