この空の下で
 要は空を眺めながら、大きなあくびをした。

 母さんは死んだのに、地球は変わらずに回る。どうやら人一人死んだところで、この世には関係がないようだ。私達にはあれほどの影響を与えたのに、この自然界なんかにはまったく影響を及ぼさない。母さんは死んだのに、私が生きているなんて、なんか変に思える。母さんの生きている時間は永遠に止まり、私の生きている時間は止まらない。

 私は信じられない気持ちで、果てしないほど続く空を見つめた。

「なぁ、母さんって、幸せだったのかなぁ」

「当たり前じゃない。生まれてきたら、幸せな家族に囲まれて生まれるし…」

「なぁ、俺達の家族って、どんなのだろう」

 要の目は切なく、さびしい雰囲気をもたらした。

「きっと…いい人だったのよ、私と要の親って。ところで、要の幸せって何?」

 要は一時、戸惑った顔を見せた。突然そんなことを言われると、誰だって何と言おうか考えてしまう。

 そして要は思いついたように言った。

「変な回答だけど、俺の幸せは、もし地球の滅亡する日が分かった時、最後に何をしようかって考えるときが幸せかな。後は…お前やみんなの幸せかな、いや、俺の幸せかな。ほら、よく言うじゃん。自分の幸せがみんなの幸せって。そうだったらその逆も言えるだろ。俺の幸せはみんなの幸せって」

 なぜだか私の体が熱くなった気がする。背中に熱いのが過ぎると、急に寒くなった。そして、いつしか心のどこかで、要に対しての好感が生まれていた。鼓動が高鳴り、再び熱が襲ってきた。

 私はすぐにでもこの場を離れたかった。

「ねぇ、早く斎場に戻ろうよ」

 要の手をつかむと、要の手は今までと違う暖かさで包まれていた。


 葬式が終わったことを知り、火葬場に移動すると、ちょうど煙突からは白い煙が出始めた頃であった。私と要はその白い煙を、鷹のような鋭い目で、じっと見ていた。最後まで見なくてはならない、そう感じたのだ。白い煙は雲に溶け込むように青々とした空に消えていった。上空で風が吹くと、雲は笑った。
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