この空の下で
 私も本当は心底うれしかったはずなのに、自分に素直になれなかった。そんな自分が憎かった。

 しかし、ただ素直になれなかっただけではない。彼らを親だと認めてしまうと、今まで共に暮らしてきた父さんと母さんがウソのようで、遠い存在になりそうで、それだけが嫌だった。

 一階からさびしくドアが閉じる音が響いた。

 私は起き上がり、二階の窓から彼らを見送った。角を曲がるまで、彼らは振り向かなかった。おじさんはおばさんの肩に手を回し、自分のもとに寄せている。

 私はその後ろ姿を見て、何も感じなかった。さびしい、悲しいという感情は感じられなかった。ただ、その後ろ姿を、窓に頬をつけて見送ることしかできなかった。

 二人の姿が見えなくなると、二人の感情がやっと分かった。それは喜びであった。

 私はまだ、窓越しから二人が曲がった角を見ていると、突然、こちらに走って戻ってくる二人の姿が見えた。顔は恐ろしく、何か恐いものに追いかけられているような顔であった。

 すると、その二人の後ろから二つの黒い車がやってきた。そして二人を車が挟んだと思うと、車から黒服の男が現れた。そして逃げ惑う二人を捕まえ、車に詰め込んだ。

「母さん、父さん…」

 私の声はむなしく部屋に消えた。

 そして部屋を出て、階段を降り、靴も履かずに外へ出た。

 そこには、もう車も母さんと父さんの姿はなかった。残ったのは、車が走り去った音だけであった。

 何が起こったかは分からない。一体彼らは何者なのか、そんなことはどうでもいい。彼らにまた会って、謝りたい。そしてたくさん話をしたい。

 私はその場で立ち尽くすことしかできなかった。

 そして暗闇は迫り、私の影を消した。
< 167 / 173 >

この作品をシェア

pagetop