この空の下で
 車が脇を走っていく。そのスピードは明らかに制限速度を破られているのが分かる。

 左には田んぼ、右には大きな通りがある。それをはさんだ向こう側は小さな店舗や昔を思い出すような家が立ち並んでいる。

 この辺りまでは自転車で来たことがある。芳江に使いを言い渡されたときを思い出した。

 しかし、あのT路より先は行ったことがない。

 どんな世界が待ち受けているのかと思うだけで、雄治は心を躍らせた。


 しばらく歩くと、土手を挟んで、勢いのいい川が流れていた。この川は多分、利根川だろう。

 この推測は自信があった。地図を取り出し、この辺りを探した。川の名前が分かったとき、思わずにやっとした。

 田んぼ道を抜けると、建物が多くなってきた。すると同時に先程より車も多くなってきた。道も細くなってきて、より一層危なくなった。

 そして雄治はこの場所でもう一度地図を見た。

「ええと…ああ、あそこか」

 雄治は地図を照らし合わせて、前方の左側の橋を見た。その橋は地図と一致する。

 雄治は橋の近くまで辺りの景色を楽しみながら歩いた。風は川と流れていく。そして風は雄治を川の中へ誘い込むように吹いた。

 橋を渡っていると、橋を駆け抜ける風は意外と強く、足をふらつかせた。時々前方の小山から、こちらに向かって枯葉が散ると、すぐに風に飲みこまれて、優雅に空へ舞っていった。そして光へと吸い込まれた。二匹の小さい鳥が、その後を追っていった。そして前方の小山を見ると、太陽に照らされた葉がきれいに七色に光っているように見えた。風が笑うと、木も笑うように返事をする。

 対岸に来ると、ついに来たことがない土地に足を踏み入れた。そのとき、何かが背中を押したような気がした。
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