この空の下で
 雄治は辺りを見回す。基本的な六畳間の和室である。しかし障子は穴が開いていたり、破かれたりと、悲惨なことになっていた。左には立派な掛け軸が掛かってあり、雄治はそれを見ながら座布団の上であぐらにして、手を机の上に置く。

「はぁ」

 一段落したように息を吐く。突然に外から視線を感じた。障子のほうを見ると、穴から目玉がこちらを覗いていた。そして目が合うと、目玉はすぐに消えて、変わりにどたどたと足音だけが残った。

 また部屋の観察をする。壁がはげていて、柱がぼろぼろだ。そして天井はというと、何もなかった。

 そしてしばらく天井をぼんやり見つめていると、障子が開いた。

「何か飲む?」

 それは葵だった。

「ああ、ありがと。何でもいいよ」

 葵はまたもとの道を引き返した。すると玄関のほうから音がした。

「ただいま」

 その声に反応した子供たちがその声に集まった。

「お帰りなさい、院長先生」

「いい子にしていたかな」

 そう言うと、歩みは台所に向かう。どうやら食料を買ってきたらしい。そして葵が話しかけた。すると足音はすぐにこちらに向かって近づいてきた。雄治の心臓は、ずんずんと高鳴り始めた。そして座りなおす。足は障子の前で止まった。

「失礼します」

 優しく、柔らかい、女性の声が耳に入った。その女性はなんというのか、よくいる世話好きの人に見えた。そしてなんといっても、どことなく芳江に似ていた。

「あなたが古葉さんね。私はここの院長の鎌塚です。宜しく願いします」

 鎌塚は軽くお辞儀をした。雄治は彼女のほうに体を向けた。

「こちらこそ、お願いします」
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