この空の下で
 そして葵は、膝から下を地につけたまま雄治のもとへ手で自分を手繰り寄せた。

「雄治くん、どうだった」

 その葵の声は心配そうであった。

「うん、大丈夫だよ」

 雄治はなるべく明るく言おうとしたが、彼女は分かったのか、そう、と言って目をそらした。何故分かったのだろうか。後で気付いたのだが、雄治の頬には一筋の涙を流した痕があった。


「雄治くん、これからどうするの」

 葵がお茶を片付けながら言った。

「そろそろ帰ろうかなって思ってる」

 雄治はぼんやりしながら答える。

「あ、そう」

 葵の声は悲しかった。そして葵は立って、障子を開けた。それに続いて雄治も立って、外に出た。

 外はまだ明るかった。木の葉では、風の波が押し寄せて、ザーとざわめいた。

廊下を一列になって歩いていると、前方に一つのドアが見えた。

「葵さん、あそこって、トイレ?」

 葵は振り向かずに、歩きながら言った。

「うん、そうよ」

「じゃ、借りるよ」

「どうぞ」

 葵は角を曲がり、雄治はトイレのドアを開けた。


「じゃあ、元気でね。芳江に宜しく」

「いつからそんな間柄になったんだよ」

 葵は玄関まで送ると言っていたが、結局、庭までついてきた。

 二人は庭を横切りながら、世間話をした。最近の社会情勢や昔のこととか。しかしいつの間にか、庭を何回も往復していて、空は夕焼けに赤く染められていた。
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