この空の下で
「どうしたんですか、その子は…」

 医師はまだ呆然としている。今度は雄治が切り出した。

「あの、この子、熱みたいなんです。診てください」

 雄治は抱いている乳児を差し出した。

「この子は、この子はいったい誰なんですか」

 医師は本当に気が動転しているようであった。その反面、雄治は落ち着いて答えた。

「そんなことより、早く診てください。すごい熱なんです」

「あ、そうですか。早く見せてください」

 我に返ったのか、乳児を受け取り、手を額にやった。それを見て、雄治は少し面白おかしく感じた。その後すぐに自分の行いに気がついたのか、やっとのことで医師らしい行いをした。

「ん、この子はいつ生まれましたか」

「分かりませんよ、そんなの」

 雄治は率直に答えた。今日この子を見つけたのに、いつ生まれたかなんて知るはずがない。そして医師は深刻そうな顔をして、重いため息をついた。

「多分、この乳児は、生後間もないでしょう…」

「生後間もないって…」

 雄治はひとつのことを思い浮かべた。

「今、非常に危険な状態です。少し、預からせて下さい」

 そう言うと、抱いたまま部屋の奥へと行ってしまった。雄治は一人になった。

 しばらく椅子の上で、あの子のことを考えていた。あの子はもしかして捨てられたのではないのか。頭の中にそのことが駆け巡る。なら、なぜ捨てたのであろうか。家庭の事情なのか、それとも、心底からあの子のこと嫌いなのか…。

 最近の悪い癖が出てしまった。意味のないことを次々と進展して考えていくことだ。

 一人で照れくさそうにいると、突然ドアが開いた。

「古葉さん、先生がお呼びです」
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