この空の下で
 看護婦がドアの横から顔を出して言った。ドアの閉まる音が聞こえてから、雄治は立ち上がって、廊下に出た。そのとき、雄治は気が付いた。あの看護婦は場所を言っていなかった。どうしたことだろうか。雄治は左から右へと廊下を見た。しかし、そこには先程の看護婦は見られなかった。そこにずっと立っているわけにもいかなかったので、とりあえず、受付へ向かった。

 受付はさっきより人は少なくなっていた。雄治は受付の窓を覗いたが、当てが外れてがっかりした。しかしここに聞けば分かるかもしれないと思ったので、受付の女性に尋ねようとしたが、変に思われるかもしれないのでやめた。

 そこで丁度、先程の看護婦が廊下から待合室に入ってきたので、急いで看護婦に歩いた。そして、ずいぶん気をつかった感じで尋ねた。

「すいません、道に迷ったんですけど、どこですか」

 看護婦は不思議そうな顔をした。そして笑いながら答えた。

「迷ったって、さっきの部屋の右の部屋じゃない」

 雄治の心は一瞬にして空っぽになった。


「失礼します」

 部屋に入ると、医師がベッドに横たわって寝ている乳児を見ていた。

「来ましたか、遅かったですね」

「いや、はい…ちょっと疲れていたので」

「そうですか…あ、そこに座って下さい」

 二人とも上手く切り出せないのか、長い沈黙が流れる。その間、二人は小さな呼吸に耳を傾けながら、寝ている乳児を見ていた。寝顔が非常に可愛い。雄治はため息をついた。

「どうやら、もう大丈夫みたいですね」
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