この空の下で
 医師は横目でチラッと雄治の方を見た。雄治はその視線の意味は分かったが、あまりにも無茶苦茶すぎる。明らかに今の医師には、どうでもなれ、バレなければいいといった気が強くなっている。雄治はなんて答えればいいのか困った。

 普通なら、そんなことしたらだめだ、とはっきり言うべきなのだが、この子を見捨てるわけにはいかない、といった別の本心があった。どうもこの小さな赤ん坊とは、何らかの縁があるらしい、と思うだけで、別の感情が駆り立った。

 雄治がそんなことを考えていると、医師はさらに拍車をかけるような一言を言った。

「実は古葉さんがもらう養子の件なのですが、あの子も実は言うと、同時刻に産まれましてね。なので…」

「…なので、双子にしろと」

「そうです。この子の未来を考えてあげるのであれば、そうすることをお勧めします。考えればの話ですが」

 医師は楽しそうに笑った。完全に雄治のことを遊んでいる。昨日、医師は冗談を言わないと言ったので、本気で言っているのだろうと思った。雄治は憂鬱そうな顔をしたが、すぐに真剣な顔に戻った。しかし、内心は心配であった。

「まだ、芳江とも話さなければならないし…」

 医師のほうをチラリと見ると、医師は微笑んでいた。そして医師は問題がないような、晴れた顔で言った。

「まぁ、どうにかなるでしょう。このことは奥さん以外には、話さないで下さい。明日には返事を下さい。今日はこちらで預かっておきますので…」

「明日までですか」

 雄治の目には、決断を急かす医師が少し憎く見えた。なぜそんな早くに決めなければならないのか、それが不思議でたまらなかった。しかしそんな雄治をよそに、医師は気にしないで続ける。

「いい返事を待っています」

 完全に医師の流れに飲み込まれた、と感じた。医師はドアの方に向かって歩くと、そのまま何も言わずに行ってしまった。が、すぐにまたドアが開くと、医師が顔をこちらに覗かせた。
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