この空の下で
「言い忘れましたが、その子はそのまま寝かせといてください」

 再びドアがバタンと閉まると、その音で乳児が目を覚ました。そして辺りをきょろきょろすると、突然泣き出した。凄まじい泣き声が部屋中に響く。雄治はこの泣き声を止めるべく、乳児を抱いた。そして腕の中で優しく揺らす。すると乳児はだんだんと泣くのをやめて、笑顔を見せた。乳児は雄治に手をさしのべた。その手はもみじのように赤く、小さかった。雄治はその手を優しく握ると、乳児は幸せそうに喜んだ。そして安心したのか乳児は雄治の腕の中で、ゆっくりと眠った。雄治は眠った乳児をもとのベッドの上にゆっくりと戻した。

 何の夢を見ているのだろうか。今、彼女は別の世界にいる。


 蛍のような星の光に照らされている廊下を通り、203号室に戻った。そして芳江のベッド近くまで歩くと、すぐにこちらに気が付いた。

「どうだった」

 芳江は待ち望んでいたかのように言った。雄治はイスに座り、孤児院での出来事を話した。孤児院での再会、養子の両親、そしてその家族関係。芳江はそんな話に一生懸命になって耳を傾けた。そして話が終わると、ベッドに寄りかかり、小さな声でぼやき始めた。

「私達に彼らのようなことができるかしら」

「オレもそれ聞いたとき、そう思ったよ」

 雄治はイスから立ち、窓を通して外を見た。

「でも俺たちが育てなきゃ、その子は一生、一人ぼっちだ。永遠に孤独の人生を生きるのと同じような人生を歩まなけばならなくなる。俺はその子の人生をサポートしたい」

「保護者がいなくたって、その子はその子なりの人生を見つけられるはずよ。たった一つの道が、人生じゃないわ」

 雄治は芳江の方を振り向いた。
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