この空の下で
 加藤は走って行ったと思ったら、すぐに立ち止まった。

「明日はどうするんだ、休むのか」

「ああ、頼むよ」

「分かった」

 そう言うと、加藤は駅へと走り去った。

 雄治はその姿を見届けた後、小箱を持って公園を後にした。


 アパートのドアを開け、中に入ると明かりをつけた。

 昨日の朝の通りだった。散らかった新聞、テーブルの上には片付けられていない食器、脱ぎ捨てられたままの服。

 ふと、昨日の朝の状況を思い出す。素早く着替えをし、急いで朝食を作って食べ、ビジネスバッグを持ち、あわただしい様子でこのアパートを飛び出した姿をしみじみと思い出した。あの時はまだ希望に満ち溢れていた。もし何でも願いがかなえられるなら、まだ輝かしかったあの時に戻りたい。いや、もうこのことは忘れたい。

 雄治は居間に向かい、新聞、食器、服を片付けた。

 そしてそのまま居間に倒れこんだ。

 外は暗闇に覆われ、月だけがひときわ輝いていた。まるで、希望の光のように。


 スズメのさえずりを耳にして、頭を起こした。朝日がまぶしい。体を起こしてみると、首が痛かった。首を押さえながら、顔を洗いに行った。

 朝食をとりながら、新聞を読む。すぐに新聞で松林清治のことを探したが、見つからなかった。そして時計を見ると、ちょうど八時を回っていたところだった。

 食器を片付け、身支度をする。服はズボン以外を着替えて、コートを着て、加藤から貰った小箱を持って、寒い外へと出て行った。

 外は予想通り冷え込んでいたが、太陽がわずかな暖かさをコートの中へと注ぎ込んだ。風は感情を剥き出しにしていた時とは逆に、優しく出迎えてくれた。そして足は勝手に病院へと向かっていた。

 ああ、今日は良い一日になりそうだ。そう思いながらも、少し複雑な気持ちでもいた。正直、不安な日でもある。芳江が何て言うか心配だったからだ。病院に近づくにつれて、その思いはよりいっそう高まっていく。しかし、足はその場に留まらずに、病院へと歩き続けていた。
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