この空の下で
 病院に着くと、待合室で頭を抑えている医師に会った。

「おはようございます…あのことを奥さんにはもう話しましたか」

「あ…いいえ、まだなんですが…昨日話そうと思ったのですが、忘れてしまいまして。なので、今から話そうと思いまして…」

「あっ、そうですか…話し終わったら、昨日の部屋に来てください…では、失礼します」

 医師は足早に立ち去った。いつもとは違う、殺風景な感じであった。何かあったのだろうか。医師を心配しながらも、203号室へと足を進めた。

 部屋の前に来ると、やはり躊躇した。しかし、アパートから出てきた時の決意を思い出し、部屋の中へと入っていった。

 正面の窓から差し込む朝日は、真ん中の狭い通路を照らし、雄治を出迎えた。

 そして芳江のいるベッドのカーテンをくぐり、中に入った。

「どうだ、気分は」

「まあまあ」

 芳江は雄治と眼を合わせようとせず、窓の外を眺めていた。雄治は構わず話を続ける。

「何かこれ、加藤がお前にさ。お前のことが好きになっちゃったかな、あいつ。多分、中身はケーキだと思うけど…ほら」

「うん、そこに置いておいて、後で食べるから。あと、加藤さんにありがとうって言っておいて」

 芳江はこちらに目もくれず、ずっと外を見ていた。

「あとさ、今日のニュースで…」

「そんなことより、養子のこと、もうどうでもいいわけ?」

 芳江が恐ろしい目をしてこちらを見た。しかし、その言葉を聞いて、雄治は少しほっとした。そして雄治は仕切りなおして、ゆっくりと話し始める。

「じゃあ、昨日の話のことなんだけど…どう考えてくれた?」

「その前に、私、昨日、夢見たの」

 雄治はなぜこの時に夢の話をするのか分からなかったが、とりあえず、おとなしく聞くことにした。芳江は続ける。

「何の夢かというと、あなたの夢だったわ」

「オレの…」
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