この空の下で
 芳江は再び笑った。その顔を見て、雄治も笑った。雄治は顔を外に向けた。

「ごめんな。オレが勝手にこんなこと決めちゃって」

「いいのよ、別に。その時にその子を見つけなきゃ、その子は本当に幸せじゃなかったと思うよ。乳児で風邪だったなんて、ふつうなら死んじゃっていたかもしれない。その子の幸せ、一緒に探してあげようね」

 その言葉を聞いて、雄治は心の底からジーンときた。今の雄治には、これだけの言葉しか送ることができなかった。

「オレ、仕事も生活のことも頑張るからな」


 雄治は203号室を出て、医師のいる昨日の部屋へ向かった。

 中に入ると、朝の医師とは違う、快さが感じられた。医師はすやすや寝ている乳児から雄治に目を移した。

「どうでしたか」

 医師は眠そうに言った。

「昨日は大変でしたよ。あまり泣かないのはいいのですが、活発なんですね、この子。毛布は嫌がるし、でも、よく寝る子ですね。おかげで少しは眠れましたよ。あと、この子の病状はよくなってきています。あと二・三日安静にしていれば、直に良くなるでしょう」

 医師の目がとろんとしてきた。

「大丈夫でしたよ。少し反対していましたけど、最後には快く賛成してくれました」

「あ、それはよかった。これでこの子からかいほ…いや、失礼。この子をお願いします」

 そう言って、そそくさと出て行ってしまった。

「え、ちょっと、この子はもう」

 医師には聞こえていないようだった。この子はもう自分の管理下に置かれたのか、もう一度確認したかったのに。そんなことを思っても、もう遅かった。

 雄治は養子を抱きかかえ、静かに部屋を後にした。赤ちゃんが起きないように。
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