この空の下で
 203号室に戻ると、さっきは気付かなかったが、峰倉さんのベッドが片付けられていた。峰倉さんは退院したのか、いいなぁ。そんなことを思いながら、赤ちゃんに目を向けて、芳江のベッドに向かった。どんな顔するかな。頭の中を、芳江のあらゆる顔がめぐった。びっくりしている顔、笑っている顔、唖然としている顔。まさか今日、ここにいるとは思っていないだろう。いつの間にか、自分の心が躍っていることに気付いた。

 そして赤ちゃんを大事に抱えたまま、芳江のベッドに通じるカーテンをくぐった。

 すると、芳江は外をぼんやりと眺めていた。すぐに芳江はこちらのことに気がついた。そして思ったとおり、芳江は目を丸くしていた。

「どうしたの、その子。その子は雄治が見つけた子?」

 芳江は完全に戸惑っていた。雄治はそれを見て、心の中で喜んだ。

「ああ、そうだよ」

「え、ちょっと抱かせて」

 赤ちゃんは雄治の手から芳江の手に移った。だが、そのことに気付かないで、まだすやすやと眠っている。

「かわいいわね、この子」

 芳江は甘ったるい声で言った。
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