この空の下で
 ある日、寝る少し前に、いつも父さんが話をしてくれる。いつも深雪とその話を聞くのだが、今日はたまたま、深雪のトイレが長引いている。

 そして突然、父さんは僕に問いかけた。

「なあ、要、トイレに神様がいるのを、知っているか」

 僕はびっくりした。まさかトイレなんかに神様がいるとは思わなかったからだ。父さんは僕に布団をかけた。

「えっ、いるの?」

「ああ、いるさ」

 父さんは得意気に言った。しかし要はまだ、疑問に思っていることがあった。

「神様はどこに棲んでいるの?」

「えーっと、トイレの後ろについている箱みたいなのがあるだろ」

「うん」

「そこの中に棲んでいるんだよ」

「へー」

 僕は半信半疑に言った。しかし僕の心を、父さんはお見通しのようだった。

「信じてないだろ」

 父さんはため息をついた。

「だって、なんかウソっぽいんだもん。その話、誰から聞いたの」

 父さんはその言葉を聞き、少し戸惑った顔をしたが、すぐに元の顔に戻った。

「話っていうのはな、誰から聞いたっていうのは言ってはいけないんだ」

「そうなの?」

「そうだよ」

 父さんはピンチを脱したような顔をした。しかし、父さんのそんな顔を見ても、僕の心は確実に動かされている。父さんは僕の顔を見てニヤッとした。僕はその顔を見て、慌てた。それを機に、父さんは僕を追い立てるように言った。

「でもな、そこのふたを開けて中を覗いちゃいけないんだ」

「なんで?」

 父さんはさらに微笑んだ。

「自分の家を覗かれるのって、あまりいい気分じゃないだろう。それと同じさ。それに開けたとき、神様はどこかに行ってしまうんだ。また新しい住み家を見つけにな」

 父さんは満足そうに言った。しかし、まだ疑問があった。

「なんで神様は棲んでいるの?」
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