この空の下で
「それはな、トイレって水が流れるだろ。その出る量を抑えたり、使う人のことをいつも見守っているんだ。だから人間は安心してトイレを使えるんだよ」

 父さんは勝ち誇ったような顔をして言った。今の話は完全に僕を信じ込ませた。

 子供は何事も信じやすいが、僕はほかの誰よりも信じやすい。お化けだって妖怪だって信じている。だから、父さんはいつも僕にウソの話をして楽しんでいる。悪いとは思っていても、なかなかこれはやめられないようであった。

 いつも話を真に受けているので、話のしがいがある、と父さんは微笑ましい笑顔で、いつもそんなことを思っているのであろうか。

 その時突然、不意にドアが開いた。そこには深雪がいた。深雪は目をこすって眠そうな声で言った。

「あれ、パパ、もう話終わった?」

「ああ。じゃ、早く寝ろよ。要、深雪、おやすみ」

 二人のおやすみの返事を聞き、父さんは安心した顔で出て行った。


「ねぇ、今夜はどんな話をしたの?」

 深雪は興味ありげにこちらを見て言った。

「そんなことより、トイレに神様がいるってこと、知ってた?」

 僕は自慢そうに言った。しかし深雪は、分かりきったような顔をした。

「それが今日のパパの話でしょ。要って分かりやすいんだから」

 深雪はフフフと笑った。僕はその笑みに動揺した。

「それにトイレに神様なんているわけないじゃん」

 さらに深雪は笑う。いつの間にか、僕の耳がカーッと熱くなっていることに気付いた。そして深雪は続けた。

「それにパパの話、多分、ウソばっかだよ。というより最近、パパって要のことをからかうのが趣味みたいだし」

 僕はとどめを刺されたように、元気がなくなっていた。しかし、そんなことを気にせずに、深雪は言った。

「ねぇ、そんなことより、しりとりしようよ」

「…いい、もう寝る」

 僕は布団をかぶった。

「なんでー、しようよ、ねえ」
< 50 / 173 >

この作品をシェア

pagetop