この空の下で
 しばらく深雪は駄々をこねていたが、とうとうあきらめたのか、静かになった。そしておやすみと一声かけ、そのまま黙ってしまった。

 その後僕は布団の中で考えた。本当にトイレに神様がいるのだろうか、父さんはウソばかり言っているのだろうか、と。そのことが頭から抜け出して、布団の中でぐるぐる回っている。

 その時、深雪の小さな声が聞こえた。深雪は寝返りをうって、大きく深呼吸をした。僕は時計を見る。すると、いつの間にか三十分が経っていた。

 僕は突然トイレへ行きたくなった。こんなに長く起きているんじゃなかったと、後悔するばかりであった。

 しかし、一人でトイレへ行くのは怖い。いつもは中間点である居間に、父さんと母さんがいるはずなのだが、今日はたまたま早く寝ていた。暗い廊下を一人で歩くのは怖いし、夜にトイレへ行くのも怖い。もうどうすることもできなかった。

 しかし、僕はひとつのことを思い出した。トイレにはおばけが出そうな感じがする。しかし今日の父さんの話によると、トイレは神様で守られているらしい。暗い廊下はダッシュをしてトイレに駆け込めばいいと考えた。それのおかげで僕は、一時的に安心したが、深雪の言葉が頭の中によみがえった。するとまた僕は、見たことがない恐怖に襲われた。

 絵本に出てきたようなお化けが出てくるのだろうか。もしくはとんでもなくおぞましい姿をしているのだろうか。僕は想像に想像をめぐらした。想像をしたくなくても、次々と恐ろしい姿のお化けが頭の中に浮かんでくる。頭を振っても頭から離れない。ますます恐怖が増していった。

 どうしよう、と思っていても、布団の中でぐずぐずしていることしかできなかった。

 もう我慢の限界が近づいてきている。怖い、もれるが頭の中を駆け巡る。

 その時、僕は決心した。ついにトイレへ行くことを決めたのだ。そして暗い廊下を小走りで走り、闇を吸い込んでいるような階段を降りて、トイレに駆け込んだ。
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