この空の下で
 幸恵は自分の机に戻り、通信簿を持ってきた。

「はい、これ。聖子、後で見せてよ」

「大丈夫だって、心配しなくても、だいじょーぶ」

 私は通信簿を開き、聖子が私の隣に来て、一緒に通信簿を見た。

「すごーい、幸恵。よくこんなのとれるね。たいていの人じゃ、こんなのとれないよ」

「へへ、すごいでしょ」

 幸恵は得意げに言った。そして私たちは笑った。なんとその通信簿には、すべての項目が3が記されていたのだった。私の通信簿には4と5もチラチラあったのに。もしかして、この三人の中で私が一番頭がいいのか。私はそう思うと、嬉しくてたまらなくなった。

「…望月さん」

 江藤先生が聖子のことを呼んだ。聖子はどうしよう、というような顔をして、こちらを見た。私と幸恵は頑張れ、とエールを送った。そして聖子は教卓へゆっくりと歩いていった。

「望月さん、えーっと、今回は…」

 二人の話は始まった。

 何もすることがなくなった私は、幸恵と話し始めた。

「ねぇ、今年の夏休み、何かする?」

 幸恵は待ってました、と言わんばかりの表情をつくった。

「今年はね、家族で旅行するんだ」

「え、どこに行くの?」

 聞いてもしょうがないことを聞くのはなぜだろう。私はいつもそう思う。しかし幸恵は楽しそうに話をする。

「なんと海外なんだよ。どこかというとね…あれ、どこだっけ」

 幸恵は考え込み始めた。

 また一人になってしまった。しょうがないので教卓の方を見た。聖子はうれしそうな顔をしている。そして楽しそうだ。話は長くなりそうであった。

「ふ…ふ…何だっけ」

 幸恵の頭の中には頭文字まで浮かんでいるようだ。頭文字が「ふ」なら、私に思い当たる節があった。

「もしかして、フランス?」

「あっ、そうそうそれ。フランスだ」

 幸恵は笑っている。

 その時、聖子が戻ってきた。さっきとは違い、うれしそうな顔をしていない。

「はい、これ」
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