この空の下で
「わたしが頭良いの、イヤ?」

 予想外の返答に私は戸惑った。

「え…ええと、イヤ…じゃないよ」

「そう、良かった」

 聖子に笑顔が戻った。そして聖子は話を続ける。

「えっとね、あたしのお父さんとお母さんさ、有名な大学を卒業したの。だから、お父さんとお母さんが、有名な大学に入ってほしいって、かなり期待しちゃって。だからさ…」

「…そうなんだ」

 その後の二人は、三つの分かれ道に出るまで黙っていた。そして私が左に曲がろうとした時、聖子が笑顔で私に声をかけた。

「じゃあね、深雪。また」

「うん、じゃあね」

 私はその声を聞けてホッとした。聖子は笑顔のまま前に向き直り、前方の道を進んだ。聖子の背中は何を語っているのだろうか。なんだか寂しさが感じられた。私は聖子が道の角に曲がるまで見届けた。もう一生会えない友達を見届けるように。


「ただいまー」

「おかえりー」

 居間で要の声が聞こえた。私は居間に入り、ソファーにランドセルを投げ出した。要はもう、夏休みの宿題に取りかかっていた。

「ねぇ、お母さんは?」

「買い物か話」

「あー、またか」

 私は落胆した。お腹が空いて、今にも倒れそうだった。しかし、その空腹も要の通信簿を思い出したらすぐに忘れてしまった。

「あ、そういえば、成績どうだったの」

 私は不敵な笑みを浮かべた。

「まあまあ」

「何それ」

 私は要の通信簿を見るべく、要のランドセルに飛びついた。

「おい、何すんだよ。やめろよ」
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