この空の下で
「ねぇ、お母さん。昼ごはん、何?」

 お母さんは気付いたように、要から手を離す。

「あ、そうだわ。今日はね、焼きそばよ」


 夏休みに入り、もうすでに十二日が過ぎようとしていた。要は昨日のうちに、アサガオの観察を除いては、宿題をすべて終わらせていた。私はというと、絵画とアサガオの観察だけが残っている。なので、私は今日のうちに絵画を終わらせることを決めた。早く要のようにだらだらとした生活がしたい。憧れのだらだら生活を目標に、私は張り切った。

 夏の昼下がり、私は筆を握っているだけで手から汗が噴き出した。残りのここを塗れば終わりだ、私は自分を励ますように心の中で言った。

「深雪、ハサミある?」

 ノックもしないで、突然部屋に入ってきた要のせいで、私の筆は塗る場所からはみ出してしまった。私は要を責めた。

「ちょっと、あんたのせいではみ出ちゃったじゃない」

 要は絵を覗き込んだ。

「そっちのほうがきれいに見えるよ」

 要は素直そうに言った。いくら人から良く言われても、やはり自分のやりたい通りにしたかった。しかし私のどこかで、要の言うことを少し信じていたようだ。

「ほんとに?」

 私は信じがたい声で言った。

「うん、だってさ、それって葉っぱでしょ。そうだったら緑の上に黄色を重ねて塗れば、太陽に照らされて光っているように見えるじゃん」

「そうなの?」

 私はまた信じがたい声で言った。そして、私はまじまじと自分の間違って重ね塗りした葉っぱを見た。すると、確かに要の言うとおりであった。

「ほんとだ」

「だろー」

 要は嬉しそうであった。

「ところでハサミどこ?」

「知らない」
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