この空の下で
 要はかなり不満そうな顔をした。

「あんたが持ち出した話でしょ。あんたから話なさい」

「えー…まぁ、いっか。じゃあ、お前もちゃんと教えるんだぞ」

「分かった」

 要は疑い深そうな眼でこっちを見た。しかし軽快な口調でひとつの単語を言った。

「ポータブル・シーディー・プレーヤー」

「え」

 それを聞いた時、確かに気持ちはスッとしたのだが、その反面、何だ、こんなのだったのか、という心があった。

「何だよ、悪いか」

「別に」

 要は少しはずかしめていた。

「で、お前のは何だよ」

「教えない」

「は?」

 要は意外と本気で怒り始めた。これはまずいと思ったので、すぐになだめた。

「ジョークだよ」

 私は要に作り笑いを見せた。

「実はね、明日は五時起きで、五時半に出発なんだよ」


 海がそのまま映ったような青い空。天高くそびえる山のような真っ白な雲。銀色に輝く大海原。そして白く光る砂浜。私は海に向かって砂浜の上を歩いている。背後ではお父さんとお母さんがパラソルを立てていた。要は砂の上に寝そべっていた。周りには私たち家族以外には誰もいない。私は海に足をつけた。すると、すぐに暗闇が迫ってきた。これから雨が降るのだろうか。そしてその予測が当たり、空からはポツポツと雨が降り始めた。私はすぐに後ろを振り返る。そこにはさっきまでいたはずの三人がいなく、海が延々と続いていた。周囲を見ても、海、海で、どこまでも続いていた。陸ははるか遠くにも見えない。そして気付くと、私の体は吸い込まれるように、海のそこに引きずり込まれた。いくら叫んだところで、誰もいるわけがなければ、助けが来るわけでもなかった。しかし私は必死に叫び続けた。ほんの少しの可能性を信じたのだ。そして顔が水につかろうとしたその時、私の周りの水が渦を巻いて、天高く消えていった。海は空になったのだった。太陽も雲の隙間から顔を覗かせ、私は手を広げて天を仰いだ。そして私は周りを見回した。するとまぶしい太陽の光が目に飛び込んだ。
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