この空の下で
「ねぇ、あなた。深雪がどこにいるか知ってる?」

「えっ、もしかして、いないのか」

「うん、この自販機の前にいてって言ったのに、いないの」

「もしかしたら、部屋の前にいるかも。行くぞ」

 僕らは小走りで階段を上がった。そしてロビーに着くと、父さんは僕に言った。

「要はここにいて、深雪が戻ってくるかもしれないからな。分かった?」

 僕はこれが非常に大事な任務だと思った。

「うん、分かった」

 二人はエレベーターに乗り込んで行ってしまった。

 僕はロビーに設置されているソファーに座った。辺りを見回し、深雪がいないか確かめた。しかしいるはずがなかった。その時、受付にいる人たちの話が耳に入ってきた。

「あの女の子、一人で外なんかに行って、大丈夫かなぁ」

「そうね、風がなくて、まだ少し明るくても、一人でねぇ」

 僕はその話を聞いて、すぐに深雪だと思った。

 気付いたら僕は、出口に向かっていた。そしてすぐに海岸に出た。確かにうっすらと光は残っているものの、ほぼ闇の中であった。僕は左から右へ首を回した。しかし、暗くて人がいるかよく分からなかった。

「みゆきー、どこだー」

 左方に向かって叫んだ。しかし波が小さくささやきあっているだけで、深雪からの反応はまったくなかった。

 今度は右方に向かって叫んでみた。しかしまた波がささやきあっているだけであった。

 僕はなんの反応がなかったのが恐かった。もしかしたら…そんなことを考えるだけで、体が震える。

 とりあえず海岸を一往復しようと思った。僕は右方に向かって歩きだした。そういえば、さっきの散歩に比べて、潮が満ちてきている。これはまずいと思った。僕は走り始めた。そして次の瞬間、何かに足が引っかかって、砂の上に横になった。僕はすぐに、何につまづいたのかを調べた。するとそこには、ビニール袋があった。僕はうさ晴らしに、そのビニール袋を砂の中から引っ張り出した。そしてそのビニール袋を砂の上にたたきつけた。僕の目は自然と、ビニール袋があった場所に戻った。するとそこには、赤い何かが埋まっていた。僕はそれが気になって、掘り出してみた。

「巾着…」
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