この空の下で
「古葉さーん」

 私は声のする方を向いた。その声は峰倉さんだった。

「古葉さん、お買い物?」

「あ…はい、そうですけど…」

 近所のおばさんたちに比べると一番付き合いやすい人なので、仲良くしてもらっている。しかも家の隣の隣が峰倉さんの家なので、さらに付き合いやすい。

 しかしいつも私と峰倉さんがこうやって一緒にいると、大抵他のおばさんが出てくる。だからまともに二人だけで話し合える機会というのは、互いの家に相手を呼んだ時だけであった。

「いまから、お茶でもどう?」

「え、もうお昼ですし、お昼食べてからにしますよ」

「いえ、うちで食べていって下さい。一人で食べるのは、ちょっとさびしいし…」

「え、でも、本当に悪いですよ」

「いえいえ、遠慮なさらずに…」

「え、でも…荷物置いてきたいんで…」


「ふー」

 家に着くと、ようやく開放された気分になった。外の空気もいいが、一緒に住んでいる家族の空気もいい。

 私は約束を守るべく早急に荷物を片付けた。

 そしてすぐに家を出てカギを確かめると、峰倉さんの家へ向かった。峰倉さんと二人きりで話すのは何年ぶりだろう。どれだけ近所のおばさんたちによって、ことごとく私と峰倉さんだけの話をつぶされたことだろう。そんなことを思うと、胸がスーとした。峰倉さんは年上だし、人生のことや子供のことについて気を楽にして話せる。

 どんなことを話そうか。私は胸をいっぱいにして、うきうきした歩調で歩いた。
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