この空の下で
 峰倉さんもカップに手を伸ばした。

「やっぱりメンタル面の問題じゃないかしら。心のどこかでトラウマみたいに、またなったらどうしようって思っちゃっているから、体調崩しちゃうんじゃないかしら」

「気持ちか…」

 私は黒いため息をついた。峰倉さんはというと、大事そうにカップを持って、紅茶をすすりながら、カップを影に、こちらを覗いた。その時峰倉さんの目は、私の気持ちを見透えているようであった。

「でも一応、知りたいなら、私がやってる健康を保つ方法を教えてあげる。もし自分が元気だって分かれば、気持ちの改善にもなるし、いいかもしれない」

「そうですね。教えていただければ幸いです」

「そう、じゃあ、まず…何からやりましょうか」


「へー、お子さんはもう大学二年生で…」

 その後は峰倉さんの教えてくれたストレッチをしながら、くだらない世間話を続けた。峰倉さんも隣でストレッチを続ける。話しながらで、時間もついつい忘れ、外はすでに暗闇に包まれる寸前だった。そして時計を見る。

「あの、すみませんが、そろそろ帰ります。今日はありがとうございました。また、何かあったら、またよろしくお願いします」

「あ、そう…じゃあ、これ持ってって。今日食べたあれよ。余分に作っちゃったの」

「いえ、そんな…悪いですよ」

「いいからいいから」

 峰倉さんは台所に入って行き、奇妙に浮いている物体が入っている透明の容器を持って出てきた。

「はい、これ。後で感想聞かせてね」

「はぁ…」

 私は押し付けられた容器を返すわけにもいかず、素直に受け取るしかなかった。しかし、心の中では素直どころか、何で渡すんだよ、とかなりひねくれていた。確かにおいしいが、見た目がまずい。誰が見ても引く。絶対に雄治だって要だって深雪だって、見るだけで吐くに決まっている。ああ、この奇物の処分、どうしよう。

「じゃ、また来てね」

 峰倉さんに悪気が無いのは分かっているが、こういうときにも気を使ってほしい。しかしこのままでいてもしょうがないので、とりあえず帰ることにした。もし雄治らが食べなくても、私が一人で食べよう、別に味はおいしいのであるから、と思ったのだ。

「では、おじゃましました」
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