この空の下で
「またね」

 峰倉さんは小さく手を振って私を見送った。私は軽く会釈をして、開けたドアの向こうへと歩き出した。

 外はひんやりとした空気が漂っており、その空気はなでるように私の頬を走った。空はかなり低く、紫色に染められていた。空のはるか彼方には、うっすらと昼の光が残っている。そして風が吹き、まるで浸透させるかのように髪の隅々までなびかせる。その時、自分の家のベランダで、何色かの色が見えた。そしてすぐにそこに何があるのかを思い出した。

「あ、洗濯物」


「ただいま」

 私はすぐさま容器を玄関に置いて、階段を駆け上がり、すっかり冷えきった主寝室に入った。そしてすぐにガラス戸を開け、ベランダに入った。あまりに急いでいたので、冷たい洗濯物が顔に覆いかぶさった。

「あー、せっかく乾いたのに…」

 完全に洗濯物は湿っていた。もう、どうしよう。とりあえず、すべての洗濯物を取り込み、部屋中に掛けた。

「大丈夫かなぁ」

 不安になりながらも私は部屋を後にした。

 玄関に置いておいた容器を持ち、居間に入った。

「おかえり。遅かったね」

 深雪と要はテレビを見ていた。そして深雪はこちらを見て、私が持っている容器に気が付いた。

「なにそれ」

 深雪はちょっといやな顔をした。少し白がかっているのだが、中身が見えるのであろうか。その言葉につられて要もこちらを見た。

「もしかして…また?」

 要は恐怖に顔をこわばらせていた。よっぽど嫌らしい。時々峰倉さんからこういうものをもらって帰ると、二人はそろって嫌がる。やはり、確かにおいしいのだが、見た目が悪すぎる。誰も食欲を注がせない。しかしもらった限りには、食べなければならない。

「そう、もらっちゃった」

 私は苦笑いをつくって、二人の共感を求めた。しかし二人は目をそらすように、テレビに目を向けた。私は重い足を台所へと運んだ。
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