この空の下で
 箸を口から離しながら、つい聞いてしまった。要の目はかなり真剣だ。

「ん…おいしい…」

「…へ」

 要は不思議そうに首をかしげた。まさかこんなまずそうなものがおいしいはずがない。しかし要の心は、ひょんな一言で季節の変わり目のように、一瞬にして変わった。そして要の箸は奇物をつかみ、口の中に入れた。舌触りが悪かったのか、うっ、と小さく呻いてまずそうな顔をした。が、一回、二回と噛むと、表情が一変した。

「ん、あれ…ほんとだ。なにこれ」

 要は今まで味わったことのないおいしさに感動した。

 そして二人はさっきとは違う、異様な空気の中で美食を味わった。


「古葉、お前は今年、どうするんだ」

 加藤はタバコを口にくわえ、パイをかき混ぜながら、もごもごとした声で言った。そして加藤は袖を肩までまくり、背もたれに寄りかかって一服をした。

「今年か…今年はちょっとだぶってなあ。ほら、子供の運動会だよ。今年は例年よりも遅いんだ」

「はーん、そうなんだ。で、長さんは大丈夫ですよね」

 加藤はすでにヤマを積み始めている。自分も急いでつくり始めたが、長さんは背もたれに手を垂らし、顔は天井を見ている状態で、何もしようとはしない。非常にだらしない格好であった。しかしその格好は、中年後半の刑事みたいで、結構様になっている。だが、はげかかっている頭が気になる。長さんはミイラが目覚めたような声を出しながらゆっくりと頭を起こし、手を天井に突き上げて大きなあくびをした。

「ん、なんだ。なんか用か」

 まったく聞いていない長さんに、加藤は少しあきれていた。そしてその言葉に、加藤の向かい側に座っている後藤が笑った。しかしそんなことを気にせず、加藤は再び同じことを聞いた。

「ああ、大丈夫だ」

 長さんはあっという間にヤマを作り、険しい顔で言った。そして袖を捲り上げ、手を台の上についた。

「今度こそ負けんぞ」
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