この空の下で
長さんは一人で気合を入れた。後藤は再び笑ったが、長さんは気にも留めなかった。
加藤はまだ人を集めたいのか、また新たに声をかけた。
「ところで、岸谷と江崎さんはどうする?」
部屋のすみのテーブルで、岸谷と江崎は座っていた。二人は自分と加藤よりも年下だが、加藤はなぜだか江崎のことをさん付けで呼んでいる。
「そうね…私は大丈夫だと思うけど…岸谷君はどうするの?」
「俺ですか。俺は…というより、何をするんですか?」
岸谷は一年目だが、江崎とは非常に仲がいい。江崎は事務の仕事で、岸谷は機械整備をしている。仕事がない時は、事務の仕事を手伝ったり、江崎の話し相手になっていたりする。しかしその仲を加藤は裂こうとしている。江崎がこの工場に入ってきてから、加藤は一目惚れをしていた。確かにスタイルも顔もいいので、こんなむさ苦しいところに入ってきたのがもったいないくらいだ。しかし芳江には敵わない。
「それはな…遠旅だ」
加藤はうれしそうに言った。しかし岸谷は厳しい指摘をする。
「で、どこに行くんですか」
その言葉に加藤は戸惑った。まさか適当にブラつくだけなんて言えない。きっと加藤には先輩としてのプライドがある。そのためにも、何かまともなことを言おうと必死に頭を駆け巡らしているだろう。その証拠に額から冷や汗が流れている。
しかし何も言えない加藤を察し、江崎は思いつく言葉を次々と言った。
「温泉よね、もちろん。連休を使って。鬼怒川か、湯西川か、どっちがいいと思う?」
「そうなんですか」
岸谷は少し怪しむように言った。加藤は江崎の言うことにぎょっとしたが、そのことを否定することはできなかった。
「あ…ああ。そうなんだ。どっちがいいかな」
加藤は苦笑いをつくった。たぶん、予算をどうしよう、と思っていることであろう。後藤も今度ばかりか、快活に笑わずに苦笑いをしている。
しかし長さんは一方に始まらない麻雀に飽きて、イスにもたれて眠っていた。多分、これで一週間に一度の麻雀大会はお開きだろう。
オレはふと時計を見た。
「もうこんな時間か」
加藤はまだ人を集めたいのか、また新たに声をかけた。
「ところで、岸谷と江崎さんはどうする?」
部屋のすみのテーブルで、岸谷と江崎は座っていた。二人は自分と加藤よりも年下だが、加藤はなぜだか江崎のことをさん付けで呼んでいる。
「そうね…私は大丈夫だと思うけど…岸谷君はどうするの?」
「俺ですか。俺は…というより、何をするんですか?」
岸谷は一年目だが、江崎とは非常に仲がいい。江崎は事務の仕事で、岸谷は機械整備をしている。仕事がない時は、事務の仕事を手伝ったり、江崎の話し相手になっていたりする。しかしその仲を加藤は裂こうとしている。江崎がこの工場に入ってきてから、加藤は一目惚れをしていた。確かにスタイルも顔もいいので、こんなむさ苦しいところに入ってきたのがもったいないくらいだ。しかし芳江には敵わない。
「それはな…遠旅だ」
加藤はうれしそうに言った。しかし岸谷は厳しい指摘をする。
「で、どこに行くんですか」
その言葉に加藤は戸惑った。まさか適当にブラつくだけなんて言えない。きっと加藤には先輩としてのプライドがある。そのためにも、何かまともなことを言おうと必死に頭を駆け巡らしているだろう。その証拠に額から冷や汗が流れている。
しかし何も言えない加藤を察し、江崎は思いつく言葉を次々と言った。
「温泉よね、もちろん。連休を使って。鬼怒川か、湯西川か、どっちがいいと思う?」
「そうなんですか」
岸谷は少し怪しむように言った。加藤は江崎の言うことにぎょっとしたが、そのことを否定することはできなかった。
「あ…ああ。そうなんだ。どっちがいいかな」
加藤は苦笑いをつくった。たぶん、予算をどうしよう、と思っていることであろう。後藤も今度ばかりか、快活に笑わずに苦笑いをしている。
しかし長さんは一方に始まらない麻雀に飽きて、イスにもたれて眠っていた。多分、これで一週間に一度の麻雀大会はお開きだろう。
オレはふと時計を見た。
「もうこんな時間か」