この空の下で
 今日は風が少し強く、砂が空に吸い込まれるように天高く舞っている。少年少女は頭の帽子をしっかり掴み、それに耐えている。小さく悲鳴を上げるものもいれば、風を真に受けている子もいる。あー、靴下を洗うの大変そう。

 空ではかすかな楽園のように、太陽が雲の間から顔を出すと思うと、すぐに雲が覆いかぶさる。しかし、その時だけ風はやむのであった。まるで太陽の命令に逆らえないかのように。

「お、そろそろ始まるぞ」

 雄治は子供のように胸を躍らせている。私もなんだかドキドキしてきた。いよいよ初めて二人の運動会を見るのである。長年の苦節、やっと叶う。

 好調らしき人物が朝礼台に立って一礼。それに続いて生徒たちも先生も一斉に礼をした。

「えー、今日は…」

 また始まった。大体の学校の共通することは、やはり校長の話が長くことなることである。卒業式の式辞はともかく、こんな天気の日に長々としゃべられるのは辛いし、彼らの足も気遣ってほしい。私は昔から校長の話が嫌だった。確かに一部はいいことを言うかもしれない。しかしそれまでの過程が長すぎる。

 生徒たちを見てみると、やはりあくびをしているものがいる。私もそれにうつされたかのようにあくびをした。

 あーあ、いつになったら始まるのかな。


「要、カッコよかったよ」

 要はおにぎりを食べながら照れくさそうに笑った。

「深雪も惜しかったけど、頑張ったね」

「来年こそ、頑張る」

 深雪はミートボールを箸でつまみ、口の中に投げるように入れた。

「で、午後のプログラムは何?」

「四つだけ。学年対抗リレーとムカデとダンスと…」

 深雪は困ったような顔をしながら必死に思い出している。そういえば口の中のミートボールはどこへ行ったのだろうか。

「保護者のやつ」

 要が横からもごもごとした声で口を出した。深雪もそうそれと満足そうに言った。

 私は冗談じゃないと思って雄治を見た。目を合わし、そのことを察したのか、雄治はすぐに応答した。
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