この空の下で
「大丈夫だよ。俺だけだから。心配するな」

 雄治は安心させるかのような笑みでこちらを見た。

「お父さんが出るの?」

 深雪は不審そうな顔で見た。次に私を見た。

「私じゃ、当然無理よ」


「よーい、ドン」

 先生の声とともに号砲がグラウンド中に鳴り響いた。

 そして五組の父子がきれいに五列に並んで走り出した。父子は二人三脚で息を合わせてゴールに向かって走る。身長差や本当に凸凹な父子が走る姿は、見る人にとっては滑稽な姿に見える。砂煙が水しぶきのように立ち、波のごとく、ゴールに押し寄せた。速い父子と遅い父子との差は大きく、二十秒差の時もあった。しかしはじめにゴールした父子より、遅い父子のほうが、最後まであきらめない姿が輝いて見える。最後までやり遂げることは、どんなに気持ちがいいことだろうか。

 私は後ろに両手を地面につけながら、朝とは見違えるほど晴れた、青空を見上げた。空に浮かぶ雲が、青く塗ったカンバスに白いインクを垂らしたように、くっきりはっきりとしている。雲はなぜ白いのであろうか。空はなぜ青いのであろうか。

 そろそろ二人が走るころかな、と思い、グランドのほうを見た。そして突然、号砲が鳴った。私は急いで雄治と要の姿を探した。トップのほうから順に探していく。トップでもなく、二位でもなく、三位でもない。しかし四位にいた。

 そして私は急いでビデオカメラを起動させようとした。あれ、どうやるんだっけ。使い方なんてすっかり忘れてしまった。なにせ三年ぶりだ。焦りすぎて、ビデオカメラがスタンドから落ちそうになった。観客の声がグランドを飛び交う。しかし私は何も言えない。今、どんな状況かを確かめるべく、走者を見た。なんと、トップはすでにゴールし、二位があと少しのところにいる。雄治らは五位に転落。その時、ビデオカメラの液晶に、二人の姿が映った。
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