この空の下で
 父さんは一度こっちを見ると、またうつむいた。そしてすっと立ち上がり、キッチンに向かうと、お茶を注いだ。そして一呼吸もなく、一気にコップ一杯を飲み干した。

「要も飲むか」

 僕はうんとうなずき、父さんの席の前の席に座った。

 父さんはお茶を両手にキッチンから出てくると、深々とイスに腰掛けた。

「さて」

 父さんはゆっくりと息を吐いた。

「食べるか。もったいないし」

 父さんは自分の夕飯を手元に寄せ、コップの中の箸を手にした。

「今日は、ちらし寿司か…悪いことしたな」

 少しの間、うつむいたかと思うと、天井を見上げ、僕を見た。

「で、なんか言ったか」

 僕はまた同じこと言った。

「ああ、そうだったな…知りたいのか」

 僕は軽くうなずき、両手をイスの手すりにかけた。そして強いまなざしで父さんを見つめた。

「そうか。もう、教えてもいい時期になったかな…オレ達の結婚記念日」

「結婚記念日?」

 初めのうちはまったくといえるほど、心当たりがなかったが、すぐに今までのことを思い出した。

 そういえば、去年も一昨年もその前も、母さんがキッチンで楽しそうに料理の準備をしていたのを、僕はかなり繊細に思い出した。あの時には分からなかった、今日は何の日だったか、やっと解明された。

 そして父さんの口がゆっくりと開く。

「あの日、オレが高校生の時…
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