この空の下で
 中学校のころの懐かしい思い出、最近の流行、今の高校生活について、そしてこれからのことを話しているうちに、弁当を食べ終わってしまった。しかし話は食べた後でも続いた。そこで、ある一人の友人が一点を指差す。その指先を、全員が一斉に見つめた。

 その先は教室の入り口を指してあった。そこにはあの時の彼女がいた。

 彼女は雄治の横を通り、彼女の友達らしき人のもとへ駆け寄った。その時もまた、あのかすかな香りを残した。皆の目は、彼女一点に注がれた。彼女は楽しそうに会話を楽しんでいる。

 オレはその姿を手にあごを乗せてボーっと見ていた。というより、そんなことしかできなかった。

 そして、友人の一人が催眠術にかかっているかのように言った。

「あの子の名前、何?」

 もう一人の友人が言う。

「オレ、知ってる。五組の法月さんだよ。名前は確か…何だっけ?」

「法月…さん」

 オレも夢の中にいるかのように唱えた。

「お。お前も興味が出てきたのか」

 友人はいやらしく言った。しかしオレには、そんな言葉が聞こえなかった。

 そしてその時間を途絶やすかのように、予鈴が教室中を取り巻いた。その音を耳にした彼女は、すぐさま教室を去り、残ったのは、チャイムのむなしい音と彼女の香りだけであった。

 それからしばらく、彼女をチョコチョコ見かけることがあった。しかし話をかけることもできず、そのまま一年が過ぎた。


 二年になり、クラス編成があった。

 その日は空も明るく、絶好の日であった。そして胸を躍らせてクラスに向かった。ついに憧れの人と同じクラスになったのだ。階段を上り、ドアが開いている教室が見えた。そしてその教室に入ろうとしたその時、教室から出てくる人と向き合った形になった。相手はなんと、例の法月さんであった。

 オレの背筋から耳にかけて、急に発火したように熱くなった。

「あ…ごめん」
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