ロスト・クロニクル~後編~
第四章 北国の嵐

第一話 愚者の遊戯



 春だ。

 そう大声を発したのは、アルフレッド。

 すると、彼の横で事務の仕事を行なっているエイルが「何?」と、冷たく複数の刺が見え隠れする声音を発する。

 一方エイルの心情を理解していないアルフレッドは、これまた大声で「祭り」と言い、笑い出す。

「そうだね」

「行くか?」

「仕事は?」

「サボる」

 彼の発言に続くかたちで、ボキっとペンが折れる音が響く。親衛隊の一員で、尚且つ新人隊員。勝手に休みを取っていい身分ではなく、特にアルフレッドは隊長シードと副隊長のリデルが厳しく見張っている。

 勝手に休みを取ろうとしているアルフレッドに、エイルはその点を丁寧に説明していく。彼の説明にアルフレッドは顔を引き攣らせると、どのようにしたら普通に休みを取れるのか尋ねる。

「真面目に仕事」

「それしかないのか?」

「当たり前だよ」

 アルフレッドの発言に、エイルは何度も溜息を繰り返す。国の為に仕事をしたいという理由で親衛隊の一員になったというのに、彼の頭の中には「サボる」か「休日」の二つしかない。

 本当にこの調子で親衛隊として女王シェラを守護できるのかと、本気で心配になってしまう。

「で、仕事」

「何をやればいい」

「事務の仕事」

 そう言いつつ、アルフレッドの目の前に資料を差し出す。一方のエイルは、怒りのあまりに折ってしまったペンを捨てると、新しいペンを用意し黙々と事務の仕事を行なっていく。

 真面目に仕事をしているエイルの姿に、アルフレッドは半分嫌々であったが事務の仕事を行なう。しかし、慣れない仕事なのでなかなか進まない。

 その時、彼等が使用している部屋の扉が叩かれた。そして部屋に入室してきた相手というのは先程話の中に出て来た副隊長のリデル。リデルの登場に二人はペンを止めると慌てて椅子から腰を上げ、背筋を伸ばした。
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