ロスト・クロニクル~後編~
第四話 王者の資格
数日後――
ミシェルの権力を前面に用いた我儘より、シェラと共に素晴らしい時間を過ごす。しかし精神面を病んでいるシェラにとって、自分の隣に誰がいて何を喋っているのかわかっていない。ただ生気が宿っていない視線を前方に向け、静かに椅子に腰かけているだけだった。
それでもシェラと一緒にいられるのが嬉しいのか、ミシェルの一方的な会話が続く。自分の自慢からはじまって、どれだけの権力を持っているかというもの。だが、自分勝手に振る舞えるのもミシェル自身が偉いのではなくて、彼の父親が偉いからということに気付いていない。
相変わらず子供っぽい発言を繰り返すミシェルに、ルークは顔を背け溜息を付く。彼の反応を知ったのはシードとリデルであったが、特に声を掛けることはせず視線だけを向けている。
その時、舌に油を塗ったかのように流暢に喋り続けているミシェルがルークを呼び寄せ、何やら注文を行った。彼の注文というのは、美味しいお菓子が欲しいというもの。ただ焼き菓子は大量に毎日のように食べ飽きているので別の菓子がいいと言いだし、ルークを困らせる。
だからといってミシェルに反論できるわけではなく、またルーク自身何が用意できるかわからない。彼は侍女に何が用意できるのか聞いてくると言い残し、彼の前から立ち去るのだった。
「頼みがある」
「どうした」
「菓子を所望なさっている。ただ、焼き菓子は食べ飽きていると言っているので、別のを頼む」
ルークの頼みにシードとリデルは一瞬困ったよう表情を浮かべるが、リデルが侍女に聞きに行く。侍女の話しでは、焼き菓子以外で用意できるのは木の実を加えたマフィン。ミシェルがこれを気に入ってくれるかどうかわからないが、焼き菓子以外となるとこれしかない。
また、マフィンだけではミシェルは不満を漏らすので、飲み物も欠かせない。この場合、ティーカップは二つ必要。勿論、ひとつはミシェル用だが、もうひとつはシェラ用に用意させる。体調の状態からいってシェラが飲み物を飲める状況ではないが、用意しないと何を言われるか――
ルークの予想は正しく、ティーカップを二つ用意したことに、ミシェルは満足そうだった。マフィンについてはやや不満であったが、シェラが隣にいるということで素直にマフィンを口に運んでいる。いつになく素直なミシェルにルークは、何処か安堵の表情を浮かべていた。