ロスト・クロニクル~後編~
このまま何事もなく、時間が過ぎ去ってくれれば――とルークを含め、親衛隊の面々も考えている。しかしミシェルに関わる件の大半は、無事に終了することは珍しく、トラブルが誘発されることが多い。それを恐れているのだろう、ルークの表情は強張り緊張感が漂っていた。
相変わらずミシェルは、シェラに向かい一方的に喋り続けている。長い時間喋っていることでネタが尽きないものかと感心してしまうが、よくよく聞けば同じ内容を繰り返している。だが途中で喉が渇いたのだろう、一緒に用意した紅茶で喉を潤し、再び一方的な会話を行う。
いつか、結婚したいね。
ミシェルの本音に、シードとリデル以上にルークの顔が引き攣る。勿論、ルークはミシェルがシェラと結婚したがっていることは知っているが、現在の状況で一緒になることは難しいと考えている。しかし立場上エルバード公国の方が上なので問題ないと、ミシェルは強気に出る。
だが、一方的に高まった情熱で結婚できるほど、王家の結婚は簡単なものではない。特にクローディアは女神エメリスを崇め、その意志が優先される宗教国家。だから、ミシェルが「好きだ!」と耳に胼胝(たこ)ができるほど言い続けても、彼の気持ちが瞬時に反映されることはない。
周囲の考えを全く理解していないミシェルは、シェラにアプローチを続ける。何が何でもシェラを自分の妻にし、一生の伴侶にしたい。いつになく我儘を言い続けているミシェルにルークは、完全にお手上げ状態。見兼ねたシードとリデルが駆け寄ってくると、落ち着くように諭す。
「煩い」
「ミシェル様!」
「他人が口出すな」
「そう仰いますが……」
「煩いと言ったら煩い」
シードとリデルの話を聞こうとしないミシェルに、ルークは肩を竦めてしまう。それでも何度も言い続け、シェラとの結婚に高い障害が存在することを説明していく。必死の説明に渋々ながら納得したのか、ミシェルは不満たっぷりの表情を浮かべながら「わかった」と、吐き捨てる。
「じゃあ、認められればいいんだ」
「ミ、ミシェル様?」
突如、何を思ったのかミシェルはエメリスに認められるようにすると言い出す。衝撃的すぎる発言に周囲に動揺が走り、ルークは他国の宗教に口出しをしていいものではないと説明する。それでもミシェルはシェラと一緒になりたいので、ルークの忠告は全く耳に届いていない。