ロスト・クロニクル~後編~
「助かる」
「いや、構わない」
「ところで、そっちの仕事は?」
「普通だ」
「それならいい」
「流石にミシェル殿も、財政の方には口出しすることはない。それに関しては、安心している」
「其方の方面まで口を出されたら、クローリアの根底が危うくなる。あの方は、感情のままで動く」
「だから……」
しかし、言葉は最後までつむがれることはない。沈黙を続けるシードにイルーズはその理由を察したらしく、それについて言及することはしない。これ以上ミシェルについて話していると気分が重くなってしまうのだろう、次にシードが発した言葉は他愛のない内容だった。
◇◆◇◆◇◆
イルーズと別れたシードは、独り城の中を歩いていた。その途中、中庭に差し掛かった時、シードは中庭で立ち竦む人物の存在に気付く。その人物は十代前半の少女――そう、シェラだった。護衛を付けず独りでいることにシードは驚きを隠せず、慌ててシェラの側に向かう。
「シェラ様」
だが、シェラからの言葉はない。
「何故、このような場所に――」
一日の大半を自室で過ごしているシェラにとって、この場所にいることは何か特別なことがあるのではないかと考えてしまう。するとシードが側にいることがわかったのだろう、シェラはゆっくりと視線を向ける。そして数年振りに口を開き、発したのは「お兄ちゃん」という言葉。
「シェラ……様」
「お兄ちゃんは? お兄ちゃんは、何処にいるの? お兄ちゃんの気配がしたの。ねえ、何処にいるの?」
「ルシオン様は……」
シェラの質問に、シードは即答できないでいた。求めたところで、大好きだった実兄に会えるわけではない。悲劇的な事件が発生する前で記憶が止まっているのだろう、シェラの懇願が続く。できるものならシェラの願いを叶えてやりたいが、シードにそれだけの力はない。