ロスト・クロニクル~後編~
「ねえ、お兄ちゃんは?」
「私は、何とも……」
「いるの、お兄ちゃんがいるの」
「しかし、ルシオン様は……」
「仕事、忙しいの? 遊んでくれるって、約束してくれたもの。お兄ちゃんは、嘘を付かないわ」
シェラは記憶が混同しているのか、ルシオンが近くにいると言い続ける。どうやら悲劇が起こる前に戻ってしまったのか、シェラの言動にシードは戸惑いを覚える。正直に教えるべきか、それとも嘘を付き続けた方がいいのか――必死に「お兄ちゃん」と言い続けるシェラが居た堪れない。
これ以上、精神が傷付くのを恐れ、本能的に記憶を消してしまった。と、考えるのが適当だろう。それを考えると、嘘を付き続ける方がシェラの精神の安定に繋がる。また正直に教えてしまったら、本当の意味で廃人になってしまう。流石に、それは避けなければいけない。
「ルシオン様は……」
「いるの?」
「いえ、いません」
「どうして?」
「ルシオン様は、今別の場所に……」
「聞いていないわ」
「急遽、決まりました」
「……そう」
大好きな兄が城にいないことに、シェラの表情が曇る。一緒に遊んで沢山の話がしたかったのだろう、シェラはブラコン要素が強いとフレイが言っていたことを思い出す。そのような性格だからこそ、兄を求め自分に内緒で別の場所に行ってしまったことに悲しみを覚える。
「いつ戻るの?」
「それはわかりません」
「そんなに、時間が掛かるの?」
「ルシオン様が、今……」
一瞬「どの場所を示せばいいのか」と、迷う。近場の方がいいのか、それとも遠い場所がいいか――
考えた末に、シードが導き出したのはメルダースの名前。勝手にメルダースの名前を使ったことにクリスティが何と言うかわからないが、この場合はシェラを思っての優しい嘘。心情を理解すればクリスティも許してくれるだろうとシードは考え、敢てこの名前を使った。