ロスト・クロニクル~後編~

「メルダース?」

「はい。世界最高峰の学び舎です」

「遠いの?」

「この国には、ございません」

「いつ会える?」

「卒業までは……」

 シードの言葉に、シェラは項垂れてしまう。大好きな兄が側にいないだけで不安だというのに、その兄が遠い場所に行ってしまった。それもいつ帰って来るかわからない状況に、シェラの顔が曇り出す。シェラの反応に何か言うべきだろうが、シードは適切な言葉が思い付かない。

「……嫌いなの?」

「シェラ様?」

「嫌いだから、行っちゃったの?」

「そのようなことはありません」

「でも……」

「ルシオン様は、この国の王位継承です。ですので、多くのことを学びにメルダースに入学しました」

 シードの説明が理解できたのか、シェラはそれ以上文句を言うことはしなかった。やっと納得してくれたことにシードは安堵するが、このままシェラを一人にするわけにはいかなかった。誰か女性隊員がいればいいが、タイミング良く女性隊員がやって来るわけではない。

(リデルがいれば……)

 と、珍しく弱音を漏らす。

 しかし一ヶ所に止まっているわけにもいかず、またミシェルに目撃されてしまった一大事だ。

 数年振りに、シェラが喋った――

 それを知ったら、ミシェルはどのような行動を取るのか。精神が癒されたと勘違いし、城の外へ連れ出してしまうかもしれない。またそれ以上に、これを切っ掛けに周囲の反対を押しのけ婚姻が一気に進んでしまったらクローディアは更に悪い立場に追い込まれてしまう。

「シェラ様、お部屋に……」

「……うん」

 シードの心情が伝わったのかシェラはゆっくりとした足取りで、自分の部屋に歩いて行く。幸い、彼女が部屋に立ち入るまでの間、ミシェルとすれ違うことはなかった。シェラは到着と同時にいつも使用しているお気に入りの椅子に腰を下ろすと、シードに視線を向けた。
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