ロスト・クロニクル~後編~

「お手紙、書こうかしら」

「ルシオン様……でしょうか」

「……うん」

 それについてシードは、返答に困ってしまう。手紙を書くということは、相手に届けないといけない。またシェラは、ルシオンから返答を待つだろう。しかし、ルシオンは――受け取ることもできあければ、返信を書くことはできない。だからといって、シェラの言葉は否定できない。

「メルダースに……」

「お忙しいかもしれません」

「でも……」

 会うことのできない兄と繋がっていたいのだろう、シェラは手紙を書きたいと言い続ける。それについてシードは断ることはできず、下手に言い訳をしてしまえば気付かれてしまう可能性が考えられる。だからこれ以上の言葉を、シードはシェラに言うことができなかった。

 リデルに、相談した方がいい。

 このようなことは、独りで判断を下すのは危険すぎる。そう判断したからこそ、シードはリデルに助言を求めようとする。何より同性同士、適切な判断を下してくれると期待する。

「シェラ様、私は……」

「行くの?」

「はい」

「お兄ちゃんに手紙を書くから、後で持って行って」

「……畏まりました」

 深々と頭を垂れ踵を返すと、シードは退室する。そして真っ先にリデルの姿を捜すと、先程の出来事を話していく。シードの話にリデルは驚愕し、暫く何を言っていいのか迷ってしまう。

「本当なのですか!?」

「勿論、本当だ」

「しかし、そうなりますと……」

「問題は多い」

「手紙の件は、いかがいたしましょう」

「いい答えはないか」

 そのように言われたところで、瞬時に回答できるものではない。この場合、シェラを騙し続けることが得策だろう。正直に話したら回復してきた精神が一気に破壊してしまい、廃人になってしまう。騙し続ける場合、手紙の返信を誰が書くのか――と、リデルは指摘する。
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