ロスト・クロニクル~後編~
シード自身筆まめというわけではなく、どちらかといえば苦手の分類。一方リデルは筆まめだが、女性の字でわかってしまう。気付かれないようにするのには異性が書いた方がいいのだが、隊員の中に筆まめの人物がいるかどうか怪しい。また、これを知る人物が少ない方がいい。
「ご友人は、どうでしょうか」
「イルーズか」
「はい」
「聞いてみる価値はある」
「でしたら――」
イルーズがどのような反応を見せるかわからないが、シェラの身を第一に考えているので悪い反応はないだろうとシードは考える。それに頭がいいので適切な言葉を選んで、手紙を書いてくれるかもしれない。何より口が堅いことで有名なので、外部に漏れることはない。
「しかし、どうして……」
「シェラ様か?」
「はい。どうして、今頃……」
「ルシオン様の気配を感じられたようだ」
「あの方は……」
「そうだ」
「夢でも……」
「いや、あのご様子ではそのようなことはないだろう。多分シェラ様は、過去を忘れられている」
シードの話を聞き、リデルは神妙な面持ちを浮かべる。あのまま忘れていた方がシェラにとっては幸せだが、いつまでも隠し通せるわけではなく、いずれわかってしまう。最大の難敵と言われるミシェルもこの状況を黙って眺めているわけではなく、寧ろ好機と捉える。
「隊長、ひとつお聞きしたいことが――」
「何かな」
「ルシオン様は、どのような方だったのでしょうか」
「ああ、リデルは――」
「とても立派な方と聞いております」
「後継者に相応しい方と、フレイ様は仰っていた」
その話を聞き、リデルは惜しい人物を失ってしまったと改めて思う。王位継承者に相応しい人物が亡くなって、そうでない人物が生きている。世の中は、何と無常なのか――と、リデルは嘆く。いや、嘆いているのは彼女だけではなく、多くの民もそのように思っている。