ロスト・クロニクル~後編~
第五話 思い出と現実
数日後――
イルーズのもとに、一通の手紙が届く。
その手紙の差出人はシェラで、どのような理由で書いているのか事前にシードから聞かされていたが、いざシェラから手紙の手紙を受け取ると緊張感が増し、イルーズは硬直していた。これについて父親に助言を求めたが、百戦錬磨のフレイもこのようなことは苦手分野。
任せる。
それが、フレイの回答。
父親から助言が受けられなかったイルーズは嘆息と共に封を開けると、書かれている文字を黙読していく。最初に書かれていたのは、遠くの地に行ってしまった兄の身を心配するもの。それに続いて書かれていたのは、メルダースでの生活やどのような勉強をしているのか多岐に渡る。
しかしメルダースに在学経験のないイルーズにとって、困惑の方が強い。シードの心情と置かれている状況や立場を考えれば、あの発言が適切だったのだろう。だが、とんでもない場所の名前を口に出してしまったと、イルーズは友人のシードをちょっとだけ恨んでいた。
(……仕方ない)
だからといって、嘆いてばかりいられないことをイルーズは知っている。これによってシェラの精神状態が安定すればそれ以上のことはなく、このまま回復してくれればいいとイルーズは願う。彼もまた、精神を病んで人形状態になっているシェラの姿に心を痛めている一人。
(しかし……)
嘘を書き続ければ、いずれ綻びが生じてしまう。また、知識にない事柄を書くのは難解そのもの。幸い、弟のエイルがメルダースを優秀な成績で卒業している。エイルにメルダースの内情を聞けば問題ないと考えたイルーズは弟を呼び手紙を渡すと、どのように返答すればいいか尋ねる。
「差出人は?」
「シェラ様だ」
「えっ!?」
「何、驚いている」
「普通は……」
特に反応を示すことなく平然としている兄に、エイルは別の意味で動揺してしまう。いや、それ以前にシェラが手紙をしたためられるまで回復していたことに驚く。エイルはいつ回復したのか尋ねるがイルーズも詳しく聞いていないので、その点はわからないと伝える。