ロスト・クロニクル~後編~
「だけど、このように……」
「嬉しい反面、不安も大きい」
「兄さんも、そう思う?」
「思わないわけがない」
「で、何を話せば……」
「メルダースでの生活だ」
「生活は……」
基本、毎日が勉強。
魔導師を目指す者は、同時に訓練も欠かせない。
メルダースの生活は大変で苦労も多いが、充実もしている。ただ、テストが行われる数日前から生徒の顔から笑顔が消え、ピリピリとした雰囲気が漂う。特に進級試験と卒業試験の時は恐ろしいモノがあり、下手をすれば血を見るかもしれないほどの殺伐感があるエイルは話す。
「それは、本当なのか?」
「嘘じゃないよ」
「流石、メルダースというか……」
「試験の成績で人生が左右されるから、皆真剣になって……勿論、それでトラブルに至ったことはないよ」
「しかし、そのようなことは……」
「シェラ様には、過激かと」
「違う話はないのか」
「違う話は……」
エイルは記憶を探り、過去の出来事を思い出していく。しかし思い出されるのはラルフの顔で、いい思い出より迷惑を被った思い出の方が強い。特に〈マルガリータ〉の件は強烈で、流石にマルガリータという名前の食虫植物がメルダースにいた――とは、書くに書けない。
なら、魔導研究会は――
勿論、ネタとしては最悪だ。
それなら生徒が一致団結し、一から作り上げた演劇の話はどうだろうか。それについてイルーズに話すと「そのようなことをメルダースで行ったのか」と驚き、逆に聞き返してくる。これについてはクリスティの思い付きであり、いつものことだとエイルは笑いながら話す。
自分が主役の王子様を演じ、現在水晶の発掘を行っている者がライバルを演じた。主となる話は身分違いの恋愛で、最後はハッピーエンドで締めくくられた。面白おかしく演劇時の話をしているエイルにイルーズはクスっと笑うと、このような経験をしてきたからこそ成長したと予想する。