ロスト・クロニクル~後編~
地獄耳で、執念深い。
確かにクリスティは味方に付ければこれほどの人物はいないが、敵に回せば何をされるかわかったものではない。彼女に纏わる数多くの噂話――というより真実を知っているので、エイルの恐怖心は続く。だからこそ、クリスティが側にいなくても小声で謝ってしまった。
「顔色が……」
「いや、大丈夫」
「それなら、良いですが……」
「ちょっと、過去を思い出してね。メルダースの先生が厳しく、怖かった……ということだよ」
「そうでしたか」
マナに嘘を付くと泣かれることを過去の経験で知っているので、エイルはきちんと何を考えているのか話す。エイルの話に納得したのかマナは泣くことはせず、可愛らしい笑顔を浮かべていた。彼女の笑顔にエイルも同じように笑顔を作るが、瞬時に表情が別のモノへ変化していく。
そう、イルーズがやって来たのだ。
「に、兄さん」
「マナと一緒だったのか」
「メルダースで、何が気になるのか聞いていた。やっぱり、ネタは多い方がいいと思って……」
「それで、何と?」
「やっぱり、授業と言っていた」
「なるほど!」
何か言いたいことがあるのだろう、イルーズは目配せでエイルを呼ぶ。その指示にエイルは兄の側へ行くと、どのような用事で呼んだのか尋ねる。弟の質問にイルーズはマナを一瞥すると小声で「シェラ様の話をしたのか」と尋ね、これについては大事にしたくないと注意する。
「勿論、何も――」
「それならいい」
「この手紙のことだけど……兄さんの知り合いが知りたがっていると言ったけど、いけなかったかな?」
「……構わない」
シェラの件が公にならないといのなら、これくらいの嘘は嘘にならないとイルーズは話す。それよりも早く手紙をしたため、シェラに渡さないといけないという。イルーズのせかしにエイルは頷くと兄から手紙の一セットを受け取ると、マナのもとへ行き今から手紙を書くと伝える。