ロスト・クロニクル~後編~

「では、お飲み物を……」

「有難う」

「すぐ、用意します」

 そう言いつつ軽く頭を垂れると、マナはいそいそと飲み物を用意に向かう。マナの立ち去る姿を確認するとイルーズは、シェラの気持ちを優先して書くように頼む。兄からの頼みにエイルは頷くと椅子に腰掛け、手紙をしたためていく。その姿にイルーズは弟の邪魔になってはいけないと、無言で退出する。そして一階へ向かう途中、フレイとばったり出くわす。

「手紙は、エイルに任せました」

「それでいい」

「で、父さん」

「何だ」

「メルダースの話ですが……」

「クリスティ殿か?」

「はい」

「今回は、理由があって名前を出した。クリスティ殿もわかってくれるだろうが……念の為に、手紙を出そう。しかし、私の名前では不信感が生まれてしまう。エイルの名前を使うか」

「それがいいかと」

「これについて、何と申すか……」

 クリスティもシェラの精神状態を前々から心配していたので、回復しつつあることを聞いたら喜んでくれるだろう。だが、素直に喜んでいられないのも本音で、フレイはクリスティからの言葉を欲した。だからその点についての適切な助言も求めると、イルーズに話す。

「ミシェル殿ですか」

「……そうだ」

「父さんが考えている通り、選択を誤れば……」

「だから、クリスティ殿に――」

 しかし、途中で言葉が途切れる。今、二人が会話をしている場所は、メイドが行き来する廊下。バゼラード家で働いているメイド全てを信頼しているが、もしも彼女達の耳に入ったら一大事。そう判断したフレイは話しを中断させると、イルーズに手紙が仕上がったら一度持ってくるように頼む。

 父親からの頼みにイルーズは頷くと、何事もなかったかのように立ち去る。自室へ戻る途中、イルーズはあれこれと考えはじめる。だが、父親が出すことが難しい回答を簡単に出すことはできず、考えれば考えるほど深みに嵌る雰囲気で、珍しくイルーズは盛大な溜息を付く。
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