ロスト・クロニクル~後編~
「強力なのは無理」
「どうして?」
「周囲を壊してしまう」
「……そうね」
「だから、弱い魔法になってしまう」
「弱くても、お兄ちゃんが魔法を使うのでしょう? それなら、いいの。お兄ちゃんの魔法が見たいから」
今回に関しては、妙に素直なシェラ。ここで「強い魔法を見たい」と言ったら見られなくなってしまうと理解しているのだろう、それ以上文句を言うことはしなかった。納得してくれたことにエイルとシードは胸を撫で下ろすと、これからについて話し合うことにした。
魔法を使う場所は、何処がいいか。
シードが提案したのは、親衛隊の練習所。
その場所に、エイルは頷く。
あの場所は以前、リデルと共に魔法の訓練を行っているので、場所としては最適といえる。シードの許可はもう下りているので、特に問題はない――と、エイルは考える。いや、この場所でなければ危なくて魔法を使用することはできず、誰かに被害が及んだら一大事である。
「ねえ、いつ」
「いつ……かな」
「今がいい」
「それは……」
「駄目なの?」
「申し訳ありません。準備がありますので……」
困っているエイルに、シードは助け舟を出す。本来、二人の関係は隊長と部下であるが、シェラの前では王子として接することにする。だから敬語を持ち入り、エイルを庇う。シードの言葉にシェラは不満そうだが、準備が整っていないのなら仕方ないと、諦めてくれた。
コロコロと気分が変わるシェラに焦る二人だが、最終的に納得してくれたことに安堵する。
「ねえ、お兄ちゃん」
「何?」
また別の場所へ行きたいのだろう、シェラはエイルの袖口を引っ張る。次に彼女が求めたのは、午後のティータイム。そのことにエイルは即答を避けるが、ティータイムならシェラが勝手に何処かへ行く心配がない。シードも同等の意見だったのだろう、エイルと目が合った瞬間頷き返す。