ロスト・クロニクル~後編~

「いいよ」

「本当!?」

「ちょうど僕も、休憩したかった」

「じゃあ、行こう」

「何処へ?」

「うーん、お庭」

「わかった」

 そう返事を返すと、今度はエイルからシードに視線を向ける。エイルが何を言いたいのか瞬時に悟ったのだろう、シードはシェラの前に進み出ると、侍女にお茶の用意をするように頼んでくると伝える。

「お菓子は、沢山用意して」

 それだけを言い残すと、シェラはエイルを引っ張りながら午後のティータイムを行う中庭へと連れて行ってしまう。

 シェラが元気を取り戻してくれたことはシードにとって喜ばしいことであったが、いかんせんその先に問題があった。エイルを兄と勘違いし「お兄ちゃん」と呼び、慕っている。今はシェラの気持ちを優先しエイルは兄を演じ続けているが、いつまでも演じ続けているわけにはいかない。

 シェラの兄は、この国の王位継承者。

 つまり、いずれ王位を継ぐ身。

 偽りの王子で周囲を騙し続けることができても、女神を騙すことはできない。最悪、女神を怒りが大地に降り注ぐ。

 いずれ、正直に話すべきか。

 そうシードは考えるが、エイルに懐いてしまった今、本当のこと伝えるのは酷といっていい。それならシェラ自身が気付いてくれるのが一番いいのだが、今の状況を考えると難しい。

(困ったものだ)

 盛大な溜息を付いた後、シードは侍女達が休憩で使っている部屋へ向かい、お茶の用意をするように頼む。

 勿論、二人分。

 「二人」という部分に侍女達は一瞬、顔を顰める。どうやらシェラの相手をミシェルと思ったのだろう、彼女達から発せられる雰囲気は明らかに最悪そのもの。親衛隊の面々同様、彼女達も嫌な思いをしている。

 それでもシードからの頼みということで、侍女達は仕事をこなそうとするが、シードが発した何気ない言葉に全員が食いつく。今回のお茶の相手は、ミシェルではない。それだけで侍女達の好奇心を擽り、一体何処の誰なのか――と、シェラのお茶の相手を聞き出そうとする。
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