ロスト・クロニクル~後編~
それについてシードは、返答に困ってしまう。
侍女に、正確に伝えるべきか。
それとも――
しかしいずれ、このことはわかってしまう。それに城で働いている侍女の数は多く、下手に噂になってしまえば大事に発展してしまう可能性が高い。といって、この内容を彼女達に話していいものではない。
苦悶に近い表情でシードが悩んでいると、侍女達は自分達がとんでもないことを聞いてしまったと理解したのだろう、急にオドオドとしだす。すると一人の侍女が「シェラ様の特別なお知り合い」と、口にする。勿論それは正しい答えではなかったが、シードはそれで押し通すことにした。
「そ、そうでしたか」
「ですから、シード様が……」
彼女達に本当のことを言うことができればいいが、内容が内容なので簡単に口に出すことはできない。
ふと、思い付いたのは侍女達の上に立つ者――女官長の存在。彼女は口が堅く、立場も弁えている。多くの者が一目置く存在なので、今回の件は彼女に任せれば問題は起こらないだろうと判断する。
行動は早い方がいいと考えたシードは、侍女達に女官長を呼んで欲しいと頼む。彼の言葉に侍女達は頷くと、女官長を呼びに向かう。暫くした後、シードの前に現れたのは五十代後半の女性。
名前は、アリア・ヴェルドーネ。多くの経験を積んでいるからだろう、フレイに似た雰囲気を漂わせていた。
「お呼びですか」
「実は……」
シードは、簡略的に説明していく。
次の瞬間、アリアの眉が動く。
「……そうでしたか」
「他言無用は、難しい。だから……」
「わかりました。彼女達には、よくよく言い聞かせます。今回は、私が対応した方が良いでしょう」
「頼む」
「畏まりました」
アリアは恭しく頭を垂れると、踵を返しシードの前から立ち去る。彼女の後姿にシードは肩を竦めつつ溜息を付くと、エイルへばっていないかどうか確認しに向かった。悪いことにシードの予感は的中し、エイルはシェラの我儘と質問攻めによって疲労困憊状態だった。