ロスト・クロニクル~後編~
あれは、何?
これは、何?
お兄ちゃんは――
舌に油を塗ったかのように、シェラは喋り続けている。
エイルは質問のひとつひとつに答えようと口を開くが、その前にシェラが喋るのでエイルはまともに喋ることができない。あたふたとしているエイルの姿にシードは見ていられなかったのだろう、助け舟を出す。
「シェラ様」
「何かしら」
「ルシオン様を……」
「連れて行くの?」
「少しだけです」
「なら……」
シードの言葉にシェラは不満そうだったが、仕方なく了承する。シェラの反応を見たエイルは「御免」と一言謝ると、シードと共に距離を取る。次の瞬間、エイルは盛大な溜息を漏らした。
「疲れたか」
「……はい」
「久し振りに兄に会ったのだから、仕方ない」
「ですが、僕は……」
「今は、兄上だ」
シェラの気持ちを考え兄を演じることを承諾したが、まさかこれほど大変だと思ってもみなかったらしく、エイルは珍しく弱音を吐きそうになってしまう。これはある意味クリスティからの強制的に突き付けられる試練に等しく、一度やると決めたからには逃れることはできない。
「何かあったら、女官長殿に頼むといい」
「女官長様!?」
「話してある」
「……助かります」
「この状況だ、助けは多い方がいいだろう」
「はい」
「何かあったら、報告するように」
本当はもっと長く話していたかったが、シェラが待っているので引き留めは短くないといけない。そう判断したシードは、エイルに目配せすると戻るように促す。シードの目配せにエイルは頷くと、シェラのもとへ向かう。すると「待っていました」とばかりに、シェラが口を開いた。