ロスト・クロニクル~後編~
エイルは続いて自分のティーカップに紅茶を注ぎ入れると、シェラに勧められるまま紅茶を口に含む。ほのかな苦味は決して嫌らしいものではなく、シェラがこの紅茶を気に入った意味を知る。エイルは一気に紅茶を飲み干すと、再度注ぎ入れ今度は香りを楽しむのだった。
「お兄ちゃん、美味しい?」
「美味しいよ」
「これも、美味しい」
シェラが差し出したのは、一枚の焼き菓子。エイルは差し出された焼き菓子を受け取ると、齧ってみる。一方、シェラは早くエイルの感想を聞きたいのだろう、顔を覗き見てくる。
「ど、どうした」
「感想」
「いい味だよ」
「お兄ちゃんは、お菓子好き?」
「嫌いじゃないね」
「……そうなんだ」
エイルの発言に、シェラは何やら考え込む。その言動にエイルは直感で何か「嫌なこと」を察したのだろう、シェラに何か仕出かそうとしているのか尋ねる。案の定、その指摘は正しく、大好きなお兄ちゃんの為にお菓子を作ろうとしていた。勿論、許されるものではない。
「どうして?」
「周囲が心配する」
言葉と共にエイルは、アリアを一瞥する。
すると目が合った瞬間、アリアは頷き返す。
「そうなの?」
「火を使ったら、火傷する」
「大丈夫よ」
「料理の経験は?」
「ないわ」
「なら……」
「練習するわ」
「練習……ね」
何と返事を返していいかわからなくなってしまったのか、エイルはアリアに視線を向け助けを求める。するとアリアがシェラの側に進み出て、料理に関しては行わないで欲しいと頼む。シェラが料理を行うというのならそれ相応の準備をしないといけないし、何より教える者が緊張してしまう。